JACSMサミットインタビューシリーズvol.01

= EVAR術後遠隔期の合併症 = | ステントグラフト実施基準管理委員会企画 JACSMサミットインタビュー シリーズ 1(JACSM Summit Interview Series 1)

Piergiorgio Cao, M.D., F.R.C.S.
お話:
Piergiorgio Cao, M.D., F.R.C.S.
所属:
イタリア ペルージャ大学血管外科
(Division of Vascular Surgery, University of Perugia, Italy)
出身:
1947年9月29日イタリア・ローマ生まれ
経歴:
1972 年 University of Rome Medical School卒業
2006年11月より ペルージャ大学血管外科 教授
The European Journal of Vascular and Endovascular Surgery編集委員長
石丸 新 JACSM委員長(戸田中央総合病院血管内治療センター) 聴き手:
石丸 新 JACSM委員長(戸田中央総合病院血管内治療センター)
吉川公彦 JACSM委員(奈良県立医科大学放射線科) 聴き手:
吉川公彦 JACSM委員(奈良県立医科大学放射線医学教室)

第51回日本脈管学会総会(2010年10月14日〜16日、北海道旭川市)出席のため、イタリア、Perugia大学血管外科教授のPiergiorgio Cao先生が来日された。日本ステントグラフト実施基準管理委員会(JASCM)はこの機会をとらえ、EVAR術後遠隔期合併症を話題としたインタビューを企画した。

Envovasucular surgeryを専門に

石丸

Cao先生は1972年にイタリアのRome大学を卒業された後、78年に米国テキサス州ヒューストンのBaylor大学に留学され、血管外科を目指されました。その動機をお聞かせください。

Cao

ローマでの研修終盤の数年間、動脈瘤破裂の治療を見る機会に多く恵まれ、すでに血管外科領域に接していました。ヒューストンでは、心臓外科で冠動脈手術も経験しましたが、1日手術30症例のうち6症例が血管疾患であったこともあり、私は血管外科により興味を持ちました。

石丸

その後、endovascular surgeryに従事されました。それにも何か契機があったのでしょうか。

Cao

94年にParodi先生がイタリアを旅行されたとき、私は腹部大動脈瘤(AAA)の外科手術を行っていました。96年に、EVTあるいはAncureと呼ばれる初期のステントグラフトが発売になりました。私はベンチテストを行ったオランダのUtrecht大学に行き、トレーニングに参加しました。そして同年2月には米国カリフォルニア州に行き、AneuRxの研修会に出席しました。96年末から97年にかけて、初期のEVARを行う機会に恵まれました。すぐに私はこの低侵襲手技が患者に大きなメリットをもたらし、AAAの最先端治療になると考えたのです。ただし、重要なこととして、この手技は少なくとも開腹手術と同程度の経験を有する施設で行われるべきであると言っておかねばなりません。

吉川

Cao先生が初期のデバイスを経験されたのはすばらしいことです。初期のデバイスには問題があり改良もされたことと思いますが、合併症の経験はありますか。

Cao

最初は、low profileでないために血管内への挿入が容易でなく、血管損傷を経験しました。数年後、migrationという遠隔期合併症を経験しました。

吉川

そのような合併症を経験されても、EVARがAAA治療の趨勢を占めると予想されましたか。

Cao

EVARを始めたときは手技に熱中していました。その後にmigrationを原因とした瘤破裂を経験し、適応患者の選択基準を厳しくしました。その結果、2000年から2001年には、EVAR患者は30~40%にまで減りましたが、この時期に形態学的安定性が長期的成功の鍵になると分かったことは良いことでした。

石丸

ところで、Cao先生は手作りデバイスの使用経験はありますか。

Cao

私が始めたときにはすでに企業製デバイスがあったため一度も使ったことはありません。

吉川

イタリアでは現在、どのようなデバイスが使用されているのですか。

Cao

Zenith、Excluder、Powerlink、TALENT、Endurant、Endomatです。

吉川

Aorfixの経験はありますか。

Cao

1度だけ使ったことがあります。とてもフレキシブルなデバイスです。

術後遠隔期合併症

吉川

術後遠隔期の合併症にはendoleakとmigrationがありますね。

石丸

エンドポイントを瘤の拡大あるいは破裂として、endoleakはその原因ですが、先ずはtype 1について、その原因はなんでしょうか。

吉川

キーポイントは中枢側頚部(neck)の形態だと思います。

Cao

初期endoleakは、不適切な患者選択や留置が原因であるため、type 1から除くべきです。遠隔期(late)endoleakには2つの要因があります。その1つがmigrationで、fixationの不具合から起こっていましたが、新世代デバイスのおかげでfixationを原因としたendoleakは稀になりました。現在のmigrationは、腎動脈分岐部前後の動脈口径拡大の進行と、ステント骨格の破損あるいはベアステントが本体から外れるという金属疲労の2つの原因があり、それがtype 1 endoleakを起こします。

石丸

fixationとはベアステントによるmechanical fixationのことですか。それとも動脈壁とグラフトの密着性をfixationとおっしゃっているのでしょうか。

Cao

mechanical fixationです。fixationという言葉は必ずしも密着性を意味しません。密着性は異なるコンポーネントで生じるからです。

吉川

ベアステントの有無によりfixationに違いが出ると思われますか。

Cao

これは非常に重要な質問ですが、私には答えられません。大切なのは動脈瘤頚部(neck)の長さです。neckに充分な長さがあればフックによって腎動脈下に固定する、active-fixationが可能になります。neckが2cm未満の場合には腎動脈上固定によって、ステントグラフトに安定性が与えられると思います。ただし、このコメントは個人的な経験や推測に基づいており確証的なデータはありません。

石丸

腎動脈分岐部の中枢あるいは末梢へのステントグラフト内挿は、fixationがあっても瘤頚部の自然拡大が問題になり、意味がないということでしょうか。

Cao

全くそのとおりです。migrationを伴わない径拡大の数は多くありませんが、密着性を失ってendoleakを生じる可能性が出てきます。これは未解決の問題ですが、現在はfenestration(開窓型)やbranched(分岐型)デバイスにより解決されます。

適応外使用

石丸

イタリアではステントグラフトの市販に際し、適応外使用に関する規制があるのでしょうか。適応を逸脱して使用することは可能か、また適応の解釈についてお聞かせいただけますか。

Cao

イタリアには日本やアメリカのような厳しい規定はありません。  私はアメリカの規定について把握していないので断定的なことは申し上げられないのですが、イタリアではcompassionate use(余命が長くない、他に方法がないなどの情実的使用)として、適応外使用が医師の責任下で行われます。ただし、患者の状態が悪化した場合には裁判に持ち込まれる可能性もありますので、使用を正当化できるようにしておかなくてはなりません。

石丸

それは日本でも全く同じです。医師には裁量権がありますが、問題が起こればその責任をとらなければなりません。  日本ステントグラフト実施基準管理委員会では、全症例のサーベイランスを行っており、適応外使用がどの程度危険であるか分析することも可能です。使用可能範囲のガイドラインといったものを提供することを考えています。

Cao

私が知る限り、そのようなガイドラインありません。私がコメントできるとすれば経験です。たとえばMedtronic社の新しいデバイスであるEndurantは、アメリカでの認可にあたって、neck長は1.5cm、neckの屈曲は60度未満であることを要求されました。我々は、neck長が8〜9mm、屈曲は60度超の症例にEndurantとZenithのlow profileステントを使用して、しっかり密着させ安全に治療を行いました。neckの長さが8~9mm以下に行うことは非常にまれで、この使用は正当化されません。

吉川

neckが短い、あるいは屈曲している症例にステントグラフトを内挿し、そのステントグラフト内にlarge Palmaz stentを入れることで適応を広げようとする人が多くいます。遠隔期には、large Palmaz stentのサイズは変わらずに、外側のステントグラフトが広がっていくために、両者にギャップが生じてendoleakが起こることがあります。私はあまり良くないと思うのですが、Cao先生はどのようにお考えですか。

Cao

全くそのとおりで、危険だと思います。大動脈壁を傷つける可能性もあります。  原則として、新世代のデバイスは大動脈の形態に適合すべきで、解剖学的形態を変えるべきではありません。大動脈壁を傷つけたり遠隔期死亡という結果にもなります。

吉川

私も無理に合わせることには賛成ではありません。

石丸

Cao先生も否定的なようですが、イタリアでは一般的に行われていますか。

Cao

めったに行いません。ただ一箇所、Koppi先生が行っています。私自身は、compassionate useとして1回だけ行いました。

石丸

解剖学的形態を変えても内挿することが盛んに行われていますね。それらの遠隔成績を注視してゆきたいとおもいます。

合併症への対策

石丸

Cao先生は遠隔期合併症を避けるために、最初の6カ月、その後は1年ごとに検査を行い、見つけ次第治療することを提唱されています。検査方法と頻度を教えて下さい。

Cao

重要なポイントは、遠隔期合併症のサーベイランスを行い、患者を失わないようにすることです。さらに、放射線被曝と造影剤の有毒性を低減化しなければなりません。私たちが現在行っているサーベイランス・プログラムでは、術後1カ月以内にCT検査を行い、全く問題がなければ、その後は単純X線検査とDuplex超音波検査でマーカー位置とステント破損をチェックし、endoleakの有無、瘤径変化を調べます。3年後は造影CT検査を行います。

吉川

造影CT検査は1回だけですか。

Cao

すべてに問題なければ、3年後に1度だけ造影CT検査を行います。

吉川

非常に理にかなっていると思います。日本ではまだそれほど議論されていませんが、ヨーロッパのIVR学会では、経過観察のための検査で被曝する放射線量が問題になっていました。検査による被曝で発がんした患者がいるのではないかというディスカッションもありました。ヨーロッパでは患者ごとに被曝量を積算し管理をしているところもあるようです。

石丸

しかし、超音波検査の精度には余り信頼性がないですよね。

吉川

日本では施設あるいは術者によって、endoleakの検出率に差があるのではないかと言われています。

Cao

そのとおりだと思います。全体的に術者に依存しますし、肥満患者には困難な検査です。しかし、注目すべきはendoleakの検出ではなく動脈瘤のサイズですから、容易だと思います。もう一つ重要なことは、超音波検査部門が検査予定を管理すべきであるということです。ステントグラフト治療を行う部門と超音波検査を行う部門とが密接に連携し、それぞれの部門が勝手に検査するようなことがあってはいけません。

吉川

付け加えたいのですが、超音波検査によるendoleak検出には難しい問題があっても、造影超音波検査は非常に有用だと思います。我々は、腎機能が低下した患者には、EVAR後に造影超音波検査を使ってendoleakの有・無を判定しています。そして、私もCao先生と同様、検査部門と協力することが重要だと思っています。

石丸

残念ながら予定時間を過ぎてしまいましたので、終了したいと思います。貴重なお話をお聴きする機会をいただきましたことに心より感謝いたします。