JACSMサミットインタビューシリーズvol.02

= EVAR術後遠隔期の合併症 = | ステントグラフト実施基準管理委員会企画 JACSMサミットインタビュー シリーズ 1(JACSM Summit Interview Series 1)

Eric Verhoeven M.D., Ph.D.
お話:
Eric Verhoeven M.D., Ph.D.
所属:
ドイツ・ニュルンベルク大学病院血管・血管内外科部門
(Department of Vascular and Endovascular Surgery, Klinikum Nürnberg, Germany)
出身:
1960年ベルギー生まれ
経歴:
1988年ベルギー・ルーベン大学卒業
1994年よりオランダ・フローニンゲン大学医療センター血管外科
2009年よりドイツ・ニュルンベルク大学病院血管・血管内外科部門 教授
石丸 新 JACSM委員長(戸田中央総合病院血管内治療センター) 聴き手:
石丸 新 JACSM委員長(戸田中央総合病院血管内治療センター)
古森公浩 JACSM委員(名古屋大学大学院医学系研究科血管外科学) 聴き手:
古森公浩 JACSM委員(名古屋大学大学院医学系研究科血管外科学)

ドイツ・ニュルンベルク大学病院血管・血管内外科部門教授のEric Verhoeven先生が、第39回日本血管外科学会学術総会(2011年4月20日~22日、沖縄)に出席するため来日された。Verhoeven先生は、大動脈瘤破裂に対するendovascular surgery、ならびにfenestrated(開窓型)/branched(分枝型)デバイスを用いた大動脈瘤治療の第一人者として知られる。そこで今回のインタビューでは、大動脈瘤破裂に対するendovascular surgeryに焦点を絞り、治療の実態についてお話をうかがった。

1,500以上の症例経験を有するendovascular surgeryのスペシャリスト

石丸

Verhoeven先生はベルギーのご出身で、現在はドイツ・ニュルンベルク大学の教授でいらっしゃいます。まず、これまでの経歴をご紹介いただけますか。

Verhoeven

私は1988年にベルギーのルーベン大学を卒業後、一般外科の研修医となり、米国に1年間、英国エクセター大学に1年間留学する機会に恵まれました。その後、1994年にオランダ・フローニンゲン大学医療センターの血管外科に特別研究員として採用され、1年後にスタッフとなりました。フローニンゲン大学では、主に血管内治療センター(endovascular center)の立ち上げに携わり、1,500件以上のendovascular surgeryを経験しました。特に、破裂性大動脈瘤に対するendovascular surgeryや開窓型/分枝型デバイスを用いた複雑な大動脈瘤治療に積極的に取り組んできました。

石丸

そして、2009年にDieter Raithel教授の後任として、ドイツ・ニュルンベルク大学病院血管・血管内外科部門の教授に就任されたわけですね。

Verhoeven

はい。ニュルンベルク大学病院に赴任できたのは大変幸運でした。というのも施設が大変充実しているからです。血管外科だけで約80床もあり、また近年、心血管センター(cardiovascular center)も別棟として新たに設立されました。

石丸

血管外科医を志した理由についてもお聞かせください。

Verhoeven

ルーベン大学の研修医時代に、血管外科が専門のSuy教授にご指導いただき、血管外科の手技やさまざまな治療オプションに興味を抱いたのがきっかけです。

石丸

血管外科の特徴、あるいは一般外科との違いについてはどのように思われますか。

Verhoeven

ヨーロッパの中には、一般外科医があらゆる手術を担う国もありますが、ドイツでは、血管外科は一般外科とは切り離された位置付けとなっています。血管外科の領域は、近年、endovascular surgeryやinterventional radiologyなどの進歩により専門化しており、心臓外科医や放射線科医など他領域の専門医との密な連携が求められます。こうした点は血管外科の大きな特徴だと思います。

古森

現在、血管外科部門には何人のスタッフがいますか。

Verhoeven

若干の変動はありますが、およそ15人の医師がいます。経験豊富な医師が5人、若手医師が5人、そして研修医が5人です。

古森

Endovascular surgeryの実施件数はどのぐらいですか。

Verhoeven

胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤を合わせて年間約250件です。当施設では、全手術の75%をendovascular surgeryとinterventional radiologyが占めています。

古森

日本でも近年、endovascular surgeryが増加しています。こうした中、どのようにしてendovascular surgeryと開腹手術の両方を若手医師に訓練させるかが大きな問題となってきています。

Verhoeven

ドイツでも若手医師の教育は重要な問題です。これまでは開腹手術の訓練が教育において大きな部分を占めていましたが、今後はendovascular surgeryやinterventional radiologyの訓練も重要になってきます。しかし、これは将来的に開腹手術が重要でなくなる,または訓練が今ほど必要でなくなるということではありません。Endovascular surgery、interventional radiologyおよび開腹手術の3つの手技をマスターしておけば、誰がどの手技を行うかはさほど重要ではなくなります。若手医師には、これら3つの手技を万遍なく経験し、学んで欲しいと考えています。

Endovascular surgeryの成否を左右するlogisticsとcooperation

石丸

それでは、大動脈瘤破裂の治療についてお聞きしたいと思います。低侵襲であるendovascular surgeryは、破裂性大動脈瘤に対しても有用性が期待されますが、その一方でデバイスの緊急供給体制など多くの課題も残されています。

Verhoeven

破裂に対するendovascular surgery治療の成否を左右する最も大きな要因はlogistics『兵站』とcooperation『協同』の2つであると言っても過言ではないと思います。つまり、救急車内での初期対応から手術終了までの一連の過程において、ステントグラフトをはじめ必要な物資がすべてそろっていること、そして外科医や麻酔科医、救急隊などのスタッフが密に連携していることが極めて重要です。例えばステントグラフト内挿時には血圧を低下させる必要がありますが、これもlogisticsとcooperationが整っていればスムーズに行うことができます。

石丸

大動脈瘤破裂の治療に関しては、当初、ステントグラフトをどのように使うかが議論の焦点でしたので、logisticsという面が指摘されるようになってきたということは、それだけステントグラフト治療が増加し、成熟してきた証とも言えると思います。
 治療の実態についてもおうかがいします。Verhoeven先生の施設における大動脈瘤破裂の症例数はどの程度でしょうか。

Verhoeven

腹部大動脈瘤破裂は年間15~20例あり、そのうちの75%に対してendovascular surgeryを行っています。

石丸

血圧調節のためにバルーンカテーテルなどの補助的処置もよく行いますか。

Verhoeven

Logisticsとcooperationが整い、血圧が適切に管理されていれば、そうした処置を要することはほとんどありません。10%以下です。

石丸

施設には全種類のステントグラフトを常備しているのでしょうか。

Verhoeven

はい。基本的にCook社とGore社の胸部大動脈瘤用および腹部大動脈瘤用のステントグラフトは、すべて施設内に在庫を用意しています。また、待機症例用に準備している開窓型や分枝型のオーダーメイドのデバイスが通常10~15本ほど施設にあります。緊急症例に対して開窓型や分枝型のデバイスが必要なとき、適応可能であれば、これらの中から使用することもあります。もちろん、その際には、デバイスはすぐに再注文します。

古森

日本の場合、すべてのデバイスをそろえている施設は限られています。また、待機手術例に対しては、通常1週間ほど前にサイズを測定してデバイスを注文するので、緊急時にそれを使用するというのは難しいのが現状です。

Verhoeven

われわれの施設は、ドイツの中でもステントグラフトの使用件数が最も多く、Cook社やGore社とも密接に連携しています。特にCook社の倉庫は近距離にあり、地理的にも恵まれています。ですから、これがドイツのスタンダードということではありません。

石丸

ドイツ全体における大動脈瘤破裂の治療の現状についてはいかがでしょうか。

Verhoeven

近年、endovascular surgeryが可能なハイブリッド手術室を持つ施設が増加し、logisticsは改善される傾向にありますが、その一方で、緊急対応を要する破裂症例は減少傾向にあります。

大動脈瘤破裂に対するendovascular surgeryの成績

石丸

大動脈瘤破裂の治療成績についてもお聞かせください。

Verhoeven

Endovascular surgeryの良い適応と考えられるclear ruptureに関しては、type II endoleakが生じることは極めてまれであり、abdominal compartment syndrome(腹部コンパートメント症候群)の発症頻度も10%以下と良好です。こうした好成績を得るためには、術前からステントグラフト留置時まで血圧を低く保ち、その後、徐々に血圧を上げることが極めて重要です。これにより、瘤の血栓化が得られ、type II endoleakを阻止できると考えられます。

石丸

遠隔成績についてはいかがでしょうか。

Verhoeven

ステントグラフトが適切に留置され、瘤への血流が完全に遮断されて出血が阻止できれば、予後は極めて良好であり、生存率は70~80%です。

石丸

デバイスの選択も重要だと思いますが、腹部大動脈瘤に対し、主にどのようなデバイスを使用していますか。

Verhoeven

Cook社のZenith Tri-Fab®を好んで使用しています。術前にproximal neck径とbodyの長さのみを測定すれば、あとは術中に測定しながら対応できます。

古森

ステントグラフト内挿後、endoleakにより出血を来し、開腹手術を要した経験はありますか。

Verhoeven

Type II endoleakによりabdominal compartment syndromeを発症した症例に対し、開腹手術を行ったことがあります。こうした症例では、腹腔内圧(膀胱内圧)が15~20 mmHgまで上昇した場合に開腹手術やドレナージが必要であると判断します。

石丸

引き続きお話をうかがいたいところですが、予定時間を超過してしまいました。次回お会いする際には、ぜひ開窓型/分枝型デバイスについてもお話を聞かせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。